Over the Rainbow

その音を探しに

そして、静かに。 12/7 niente. Last Show 渋谷club乙

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物事には終わりがあると判っていても、好きだった存在が消えてしまう時、心にカランと音が響く。カラカラと転がるその音の源は、失う事への寂寥の念か、振り返った記憶を愛惜しく思う未練か。

この日は午後の澁澤龍彦展から駆け足で、渋谷の乙(きのと)へと向かった。
(余談だが、ここは駅からそう遠くないのに数回に1回は迷う。渋谷の地脈は乱れているからかw)
久しぶりに見るniente.のライブは、しかし、彼にとって最後の時間となる。
実の処、私の音楽履歴は大変浅く、十数年間、某虹色楽団にDIVE TO BLUEし続けて後、やっと他の分野に目を向けるようになて5年ほど。
そんな新規開拓初期に出逢ったバンドの一つが、niente.であった。
彼らを最初に観たイベントはとても良いバンド揃いであったが、今も活動していたのはniente.を含めて2バンドのみ。
その片方のMemeは私の最も好きなバンドの一つだが、非常にマイペースにイレギュラーな活動で存続しているのに対し、niente.はコンスタントで積極的ライブ活動をしていて安心できる存在であった。観れば毎回、感銘を受ける。
しかし、何故かタイミングが合わず、知ってからそれなりなのに年に1・2回しか観に行く事が出来なかった。
niente.は、いつもいる。
そんな甘えがあったからかもしれない。

しかし、この夜、彼らは音を止めた。
名前の通りに。
[niente] 音楽用語で、段々弱く。そして、無。
華やかに、それから静かに“無”になってゆく音に。
全てを尽くして。

そんなniente.のラストステージを共にした、共演バンドについての感想から。
と言っても、1組目の水槽のクジラは殆ど間に合わず。迷ったからw
辛うじて聴けた最後の曲は、大変熱いものであった。エモい。
多分、この日の出演者の中で若者層に一番受け入れられそうなのが、この水槽のクジラ。
しかし、ごめんなさい。19歳の激情に共感するには、既に化石な人間なのです。
いや、そもそもリアル19の頃は、ずっぽりドラコニアに入り込んでいたので、火傷しそうな世界からはそっと逃げ出してたw

2番手のyeti let you noticeも、何となくTwitterで名前を見かけた事があったかなぁと言う程度。
予備知識なしで臨んだので、最初、Vo.のスタイルとハイトーンに女性かと誤解しそうになったくらいww
真っ白シャツに長い姫カットは、一寸引っ掛け問題w
スタイルの所為か、若いお嬢さんファンが多い感じだし。
容姿と声で、自家中毒的ポエジーな世界なのかと思いきや、なかなかどうして。
確かにそういった嫌いが感じられた部分もあったが、それ以外な面も感じられ、最初の印象より面白い展開だった。
曲によってはポストロック色の強い演奏で、しかし激しくとも重すぎない轟音がこのバンドの特徴なのかなと思った。
割と嫌いじゃない音とVo.ではあったが、やはりジェネレーションギャップの敷居は高いかな。
niente.との遠征の思い出MCは、記憶にある内容で、仲の良さが垣間見られて一寸じわっと来た。

と、乙らしい若さに追いつけない老体は、体力温存の為にここまで座ってライブを観ていたのだが。
全く予想外に、3番手のMuscle Soulにやられてしまったのだ。
気が付いたら立ち上がり、1曲ごとに前方に踏み出していた。
予習なしライブだと、こんな風に番狂わせ的お宝もあるのが楽しいw
新譜リリースのツアー中で、前日は稲毛K's dreamだったと知って凄く納得。
名古屋からの遠征なのに、60㎏の機材をステージに持ち込む気概は凄い。本物。
曲が進む毎に、様々な変化を見せる。
最も高まった中盤辺りはUK色が強い感じだったが、最初の方はポストロックな感じだし、轟音の残影での〆るシューゲテイスト。所々、アンビエントな余韻もあったり。
しかし、その最後の最後、激情の轟音の上に、何処かあどけない朴訥で優しいメロディを落として終演したのが、とても印象的。間口が広い上に、芸が細かい。
個人的には前半の、ドスンと重たい感じが好み。
かといって偏り過ぎず、案外、受け入れられる間口は広い様に思われる。

色々な音色に敷居をつけない演奏も良かったが、それに拮抗するVo.が実に素晴らしかった。
艶と強靭さを兼ね備えていて、場面を作り上げていた。
声は一番判り易い楽器で、訴求力を持つ。それを得ているバンドは強い。
Muscle Soul、関東のバンドでないのが残念だが、今後もまた観たい。
しかし、名古屋バンドも良いっすなぁ。Ayslaを思い出したよw
新譜の「NATURALISM」は全国流通なので、それ以前のライブ盤2枚を購入。物販や通販でないと入手できない物が優先。
でも、一寸失敗して、もう一枚あったEPを買い忘れた。これは全国流通盤じゃなかたのね。
それ含めて、また今度という事でw

はてさて。
そして、やっとこの夜の主役であったniente.に。

今更な紹介だが、niente.は女性Vo.を中心に据えた歌モノ。
涼やかな声とクリアなピアノ、煌き柔軟に伸びるギターとうねるベースが織りなす音景は、宛ら光の滝の前に佇むかのような心持ちになれた。
音が瀑布の如く降り注ぐ。
音源も良いが、ライブにこそ醍醐味があった。
そして、私が観てきたniente.の中で、この夜が最高のniente.だった。

特別な事をして、大きく飾った終幕だった訳じゃない。
小さな演奏ミス(いや、そこそこのミス?w)から始まり、それもゆるゆるとしたMCにして、演奏は音の滝を轟かせる。
いつものniente.のまま、niente.として完結させた。
その事に感無量。

終盤のMCで解散理由を語りかけ、やっぱり止めたと笑ったVo.タチバナアキホは小悪魔の様に素敵で、天使の様に正しい。
完全にniente.をやり遂げたのなら、それでもう十分。それ以上の言葉は不要なのだから。
その位、この夜、彼らはniente.を出し切って終えた。
下記のセットリストは、niente,を知っている人なら納得の、彼らを象徴する曲揃い。
大好きな「泡沫」は、アキホ嬢の清涼な声に少し泣きそうになった。
そして、最後のMV曲となった「orbit」は音源を遥かに超える感動があり、あぁここまでやり切っちゃったんだなぁと言う思いも一入に。

アキホ嬢が言葉にしなかったように、本当の解散理由はどうでもいいのだ。
niente.は完成された。それだけで。
冒頭の演奏ミスはご愛嬌、どの曲も本当に良い演奏だった。
普段なら〆に使う曲でなく、現メンバーが初めて一緒に作った曲で終えた。
アンコールはなし。本編で完結したのだから。

最後まで音は輝き続けた。
でも、いつまでも続く音はない。
心にカランと転がる、寂しさの音も。
余韻は段々弱く薄れ、そして静かに。
niente.はniente.(無)として、本当に完成されたのかもしれない。
有り難う。楽しい時間でした。


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niente.@渋谷乙セトリ:
chromatography
泡沫
orbit
M4
noctiluca
glide
1R
Altair
slowaid
theta